わかる?:認識の脳科学
◆『「わかる」とはどういうことか=認識の脳科学』より引用
:山鳥 重さんの著作:ちくま新書
個人でも企業でも、コミュニケーションにおいて「わかる」ということが、すべての基本にある価値ではないかと思う。「わからない」ものは面白くないし、使うことができない。学校教育は、学年を追うごとに学問の内容が高度で複雑になっていく。前の学年で「わかる」ことを部品にして、難しいことを構成していく。このやり方にも一理ある。やさしいことを組み合わせて難しいことを語っていく。
しかし、この「わかる」ことの積み木方式では、常にわからないことがある。小学生は中学生の内容がわからない。高校生は大学生の内容がわからない。そして大学生は社会人の内容がわからない。社会人は今度は専門家の内容がわからない。
中学生の頃、理科の教師が言った言葉がずっと記憶に残っている。「君たちは大人になったら答えのない問題とぶつかるようになる。そういう問題を解けることが大切だよ」。正解のある練習問題と試験の毎日に、私もはやく大人になって、そういう問題と取り組みたいものだと思っていた。
大人になったら、本当に答えのない問題ばかりだった。学校教育的には、「わからない」ことだらけだが、「わかる」には他のパターンが、たくさんあるのだと漠然と知ったが、どういうパターンなのか、幾つあるのか、モヤモヤしていた。
この本は、脳を専門とする医学博士が、わかることの意味を解説する本である。私のモヤモヤに答えを与え、わかった気がした本。
■わかるの種類と、大きな理解
まず理解の前提となる認知や記憶のメカニズムも詳しく語られる。実はこの部分が最もデータも多くて、参考になる部分と感じた。そして、この知識の上に、わかることの説明が構築されていく。この本は、「わかる」には幾つかの種類があるとして次のように分類している。
・全体像が「わかる」
・整理すると「わかる」
・筋が通ると「わかる」
・空間関係が「わかる」
・仕組みが「わかる」
・規則に合えば「わかる」著者は脳が専門なので、上記の分類は恣意的(その場の思いつき)ではなく、脳の機能にもとづいた分類に近いようだ。
例えば、大脳に障害が起きた人の中には、線で書いた立方体が平面的にしか見えず、描くことができないケースのあることなど、脳の機能不全によって特定の理解が困難になる例が挙げられている。このリストは、情報システムの設計や、データの可視化、わかりやすい文書の作成など、今の自分の仕事に使えそうだと思った。
著者が本当に伝えたかったのは最終章の「より深く大きくわかるために」だろうと思う。「わかる」にも水準があるというテーマで、著者の自論が展開される。大局を理解したり、深く物事を知ったり、悟ったりという話。
・大きな意味と小さな意味
・浅い理解と深い理解
・重ね合わせ的理解と発見的理解この本はノウハウ本ではないので、わかりやすくするにどうしたらよいかという話はあまりでてこない。タイトルどおり、わかるの意味が知りたい人に、専門家が一般向けに書いた入門書。
■文章の簡単化の技術「よめるどっとこむ」
このサーバの同居人のshimaさんは、わかるの重要性に注目して、オンラインの文書をわかりやすくする技術を大学研究している。(春からの海外留学おめでとうございます。)
Webのニュースに、ルビを振る。マウスを単語の上に乗せると、コミュニティ形式で編纂する辞書プロジェクト「WikiPedia」の定義データを引っ張ってきて、ポップアップ表示する。